赤手空拳 2





煙草を吸って 一服した三蔵は、また 歩き出していた。

どこへ向かえばいいのか 何を目印にしたらいいのかも分からなかったが、

じっとしていても どうしようもないことだけは 分かっていた。

ここに 自分1人だけというのも あまりにも不自然だし、

何よりも のことが気がかりだった。

三蔵の記憶では 宿について 普通に眠った事を 覚えている。

その時には 別に変わった事などなかったし、も一緒に眠ったはずだ。

しかし 目覚めてみれば 闇深い夜の森に1人彷徨っていたのだから、

どうしようもない。

眠っている間に 何かされたのだとしたら 何よりもの安否が気になる。

あまり動き回っても無駄だとは思ったが、そうせざるを得ない 三蔵だった。





ガサッ・・・・・

不意に 自分以外のものが音を立てた。

相手もそれに気が付いたのか こちらをうかがっている。

三蔵は 懐にある愛銃のグリップを握り、戟鉄に指を掛けた。

「そこにいるの誰? 三蔵  八戒 悟浄。それとも妖怪?」

のん気にも自分以外の全員の名を呼んでいる。

「俺だ。」三蔵は 息を吐いて 戟鉄をゆっくりと戻した。

姿を現した悟空は 三蔵を見て ほっとしたように笑った。

「三蔵 ここ何処なの?

あれ 三蔵 と一緒じゃねぇのか?

まずいじゃん 三蔵。俺 は三蔵と一緒だと思って 安心してたのに!」

悟空の言葉に 舌打ちをして 三蔵は 益々のことを心配するのだった。

ひょっとしたら 悟空と一緒かもしれないと どこかで 期待していたのだが、

違うとなると 急いで捜した方がいいかもしれない。





「悟空 お前 の匂いかなんかしないか?それとも 何か聞こえなかったか?」

三蔵の問いに 悟空は無言で 首を横に振った。

そんな三蔵の頭の中に の声が聞こえてきた。

「三蔵 三蔵 私の声が聞こえますか? 三蔵 聞こえますか?

三蔵 聞こえていたら 答えてください。」

何処から聞こえるのでもない 自分の中からの声に 三蔵は 悟空を見た。

だが 悟空はそんな三蔵を 不思議そうに見ているだけで、何も言わない。

するとこのの声は 俺だけに聞こえているんだな。

そう判断すると 三蔵は「悟空 から 何か言って来ている。

暫く 俺をこのまま守れ。」そう言って 座ると 目を閉じた。




三蔵は 心の中のの声に 答えようと 気持ちを集中した。

 聞こえているぞ。いま 何処にいるんだ?」

「三蔵 良かった。無事なのですね。そこにいるのは 三蔵だけですか?」

「いいや 悟空が一緒にいる。いま 合流したばかりだがな。」

「そうですか。悟浄は まだ1人なのですね。

三蔵 落ち着いて聞いてください。

三蔵と悟空と悟浄の3人は、ただ眠っているだけです。

私と八戒は ここに起きていて、3人が術で眠っている事に 

今朝 気が付きました。

たぶん 幻術か妖術で 夢の世界に捕われているようです。

そちらの世界で 術を施している者を 倒さない限り、目覚めないと思います。」

「そういうことか どうりでおかしいとは思っていたが、と八戒は無事なのだな。」

「はい 私がこうして 話をしている間 八戒が守ってくれますから 

集中できますが、三蔵は 大丈夫ですか?」




「猿が 一緒だから 大丈夫だろう。河童がこっちにいるのなら 

捜さないとダメなのか?

ところで は どうやって話をしているんだ?」

「私の神力で 三蔵の『三蔵法師』の力に言葉を送っています。

長い時間は無理なので 悟浄と会えたころに また 話すようにしましょう。

とにかく 今は悟浄と合流してください。では 悟空と悟浄によろしく、

帰りを待っていると 伝えてください。

2人には私の声が聞こえませんので、

戻ってくる時のためにも離れないでくださいね。

三蔵 お気をつけて ご無事でお戻りください・・・・・」

「解った。」

三蔵はとの通信を終えて、静かに瞼を開いた。

目の前は先ほどと変わらない夜の森に戻ったが、

三蔵の心の内には闇は無くなっていた。





三蔵が との通信らしきものを終えて 立ち上がったので、

悟空は 緊張を解いた。

「三蔵、なんだって?」

「あぁ 悟浄もこっちにいるらしい。

と八戒は 宿で無事だそうだから、心配するな。

俺達3人は 何かの幻術で眠らされて この世界にいるようだ。」

「俺達 夢の中にいるってことなのか?」

「あぁ 簡単に言うとそういうことだ。

猿、が よろしくと言ってたぞ、帰りを待っているそうだ。」

「うん 解った。」

三蔵は の言葉を 悟空に伝えてやった。

は心配しているだろう、たぶん かなり無理をして言葉を伝えてきたはずだ。

それなら 自分の言葉でない以上 

悟空には伝えなければならないだろうと 三蔵は思った。



***




は 三蔵との会話を終えて 身体を起こした。

しかし 肩で息をしている所を見るとかなり疲労していると 八戒は思った。

 三蔵とは 連絡が取れましたか?」

「はい 何とか 見つけることが出来ました。

今は 悟空と合流できているようです。

2人とも無事なようですし、まだ 敵とは出会っていないようでした。

悟浄は まだ 三蔵とも合流できていないようです。

まずは 悟浄を見つけてくれるように 頼みました。」

「そうですか。

さあ も休んでください。かなり大変なことなのでしょう?顔色が良くないですよ。

ここは 僕が見ていますから 隣に部屋で 横になったらどうですか?」

八戒は の身体を思いやって 言葉を掛けた。




「八戒 私は もう大丈夫ですから ここにいさせてください。

1人になるのもいやですし、横になったって 眠れません。」

「そうですね。気持ちは良く分かります。

では ここに簡易ベッドを入れてもらって 僕と交代に休みましょうか。」

「えぇ お願いします。」八戒の妥協案に は賛成し、

3人を見守りつつ このまま過ごすことにした。

にとって 神力を使うことなどたいして 負担にはならない。

だが 幻術の中にいる三蔵に負担を掛けないように ほとんど1人の力で

会話を行ったために 三蔵にはたいした事はなかったが、

その分 には 辛い作業となった。

だが 何もわからない三蔵たちに 連絡を取れたということは、

眠らなかった2人にとって今後どうするかのめどを立てることには 役立った。




 僕たちに今出来る事は 三蔵たちを信じて 待つことですよ。

まあ あの人達のことです、殺したって死んだりしませんよ。 

きっと 無事に帰ってきますよ。

さあ お茶でも飲んで 落ち着きましょうか。」

八戒は 明るく言うと 茶器に手を伸ばした。 










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